感染症・アレルギー・癌と闘うためのグローバルな連帯:千葉大学‐UCSD免疫学イニシアチブ

文責:織田雄一、中山俊憲、清野宏(千葉大学医学部)

千葉大学とカリフォルニア大学サンディエゴ校との共同研究により、免疫学の研究・教育において大きな進歩がみられています。2016年に千葉大学とカリフォルニア大学サンディエゴ校(UCSD)は、感染症・アレルギー・癌の予防や治療を目的としたワクチンの開発に取り組むための共同研究プロジェクトを開始しました。千葉大学は当初の5年間で200万ドルを拠出し、USCDも同じ額を拠出しました。本プロジェクトにより、日米両国にて研究者や学生間の共同研究と人材交流が盛んになっています。千葉大学とUSCDサイエンス・リサーチ・パーク内に設置されているラホヤアレルギー免疫研究所(LJI)の間で10年以上にわたり共同研究が行われ成果を出しているという実績が、プロジェクトの下支えとなっています。

千葉大学大学院医学系研究科は、100年以上にわたりアレルギー・免疫学研究の進歩に貢献しております。免疫学と、多くの病気に対する最善の対処法とは体自身の免疫力を高めることだという考えは、医学研究と臨床治療の分野で支持を集めています。免疫系の機能障害を抱える人は世界中に何億人もいるので、効果の高い新たな治療法の開発を求める声は非常に多く切実なものがあります。

千葉大学とUSCDは先見性のあるプロジェクトを開始しました。免疫学、感染症、病理学、微生物学、内科の分野でさまざまな知見を持つ研究者たちが協力し、高度な研究を実施し次世代の生物医学研究者を育てています。共同研究プロジェクトが発足したことで、千葉大学・UCSD・ラホヤアレルギー免疫研究所の主任研究者や各研究機関をつなぐネットワークが構築され、免疫系疾患の共同基礎研究が盛んになりました。さらに、得られた研究成果を活用し患者様の治療に役立てることが期待できるため、研究者と医療業界の関係が強化されています。

研究成果を治療法開発につなげるため、千葉大学・UCSD・ラホヤアレルギー免疫研究所では、優れた研究者間の太いパイプを構築し研究室で得られた成果を常に臨床で活用できるようにしました。千葉大学とUCSD双方が、データ・知見・リソースを共有することで、新たな予防薬や革新的な治療法の開発を加速させています。

たとえば、MucoRice-CTB(千葉大学‐UCSD 粘膜免疫・アレルギー・ワクチンセンター(cMAV)の中核メンバー清野宏が率いるチームが開発した新種のコレラワクチン)などは、共同研究により得られた輝かしい成功事例の1つです。MucoRiceには、既存のワクチンに比べて複数のメリットがあります。室温でも安定して保存でき、汚染のリスクが低く、効果が高いのです。MucoRice-CTB開発で得られた技術は、アレルギーや癌などの新興・再興感染症に対応する別な種類のワクチン開発でも利用されています。他のワクチン開発に役立てるため、MucoRice-CTBという新型粘膜ワクチン開発で得られた技術は、SARS-CoV-2ワクチンの開発でも利用されています。

千葉大学とUCSDの研究者たちは、アレルギー性炎症を引き起こすメカニズムの多くを解明する研究に取り組んでおり、スギ花粉症の舌下免疫療法といった新たな治療法を確立しました。スギ花粉症とは日本固有のスギの木の花粉が引き起こすアレルギー疾患の1種で、毎年数百万単位の人々が苦しんでいます。

T細胞を扱った免疫生物学における20年以上の研究成果を利用して、千葉大学大学院医学研究院免疫発生学の木村元子准教授は現在、CD69分子が免疫調節にて果たす役割を研究しています。木村准教授が率いるチームはマウスを利用した研究で、抗CD69抗体には喘息・大腸炎・関節炎などの原因となる炎症反応を予防する効果があることを発見しました。この研究成果により、新型コロナ感染症による肺炎を抑えるための新たな抗体療法の開発が実現する可能性もあります。cMAVでは、世界各国の製薬ベンチャー企業と協力して、抗Myl9抗体に加えてヒト化抗CD69抗体の開発にも成功しました。この2つは難治性炎症性疾患の治療に役立てることが可能とみられています。木村准教授の研究により、CD69を新たに活用して癌免疫療法を進化させられる可能性があることも明らかとなりました。木村准教授によると、免疫チェックポイント阻害剤と呼ばれる強力な抗悪性腫瘍薬では患者の約20%にしか効果が見られず、自己免疫疾患を抱える患者には投与できないとのことです。

次世代の医学研究者を育成することも、共同研究プロジェクトの主要な目的の1つです。千葉大学とUCSD双方が、免疫学を学ぶ大学院課程を新設しました。2014年から毎年、千葉大学の大学院生10名が夏季インターンシップに参加するためLJIとUCSDに派遣されています。2019年には、文部科学省と千葉大学の共同支援により、革新医療創生CHIBA卓越大学院プログラム(iMeC-WISE)が始動し、大学院生は千葉大学とUSCDの両方で修士号や博士号を二重に取得できるようになりました。修士課程は専攻が9つあり医科学、総合薬品科学、数学情報科学、地球環境科学、先進理化学、創成工学、基幹工学、環境園芸学、看護学となります。4年間の博士課程の専攻内容は先端医学薬学です。iMeC-WISEでは卒業後の就職支援のみならず、経済的支援とキャリア開発オフィスを提供しており、各学生の可能性を最大限に広げてキャリアで成功するための基盤づくりを実施しています。iMeC-WISEでは、医学の発展に貢献し、新たな治療法や医薬品開発の道筋をつけ、持続可能な医療制度を開発する、次世代の世界トップクラスの研究者やイノベーターを育成することを目指しています。

今後の展望

免疫学における共同研究プロジェクトを拡大し、アジア・ヨーロッパ全域で活動する計画があります。千葉大学には日本におけるマイクロバイオーム(細菌叢)と希少疾患に関する膨大な量のデータがあり、このデータを国内外の研究協力機関と統合運用すれば大きなチャンスが開けます。