教室を超えたバーチャルエクスチェンジ/COIL:関西大学の米国パートナー機関への影響
By 藤井ミッシェル と池田佳子による



はじめに

グローバル化が進む世界は、2020年の新型コロナウイルス感染症のパンデミックによって甚大な影響を受けています。高等教育機関は、学生に有意義な国際教育と異文化体験を提供するための次のフロンティアとして、VE(Virtual Exchange、仮想交流)/COIL(Collaborative Online International Learning、オンライン型国際連携学習)に注目しています。関西大学は、新型コロナウイルス感染症による危機がもたらす課題を、米国や世界のパートナーとともに国際的な高等教育を推進するチャンスに変えようとしています。関西大学では、COILのような実践方法を採用して既存のカリキュラムを国際化するなど、キャンパス内でさまざまなIaH(Internationalization at Home、地元における国際化)の取り組みを行っています。 

日本の高等教育機関(HEI)におけるコンピテンシーベースの仮想交流の実践は、日本では早稲田大学の異文化交流実践授業(CCDL)プログラムに20年以上の歴史があるほか、関西大学が2014年に国内でのCOILコンセプトの先駆者となりました。関西大学が最初にCOILを導入した相手は、ニューヨーク州立大学(SUNY)COILセンター(米国)でした。関西大学教員の池田佳子とSUNY COILセンターのグローバルパートナーネットワークのコンサルタントであるジョン・ルービンが2013年に京都で開催された会議で出会ったことがきっかけとなり、両機関にとってメリットのあるパートナーシップが実現しました。関西大学は、「トリプル・アイ - 異文化イマージョン構想」と呼ばれる新しい国際化戦略の策定を進めていました。この戦略では、関西大学の3万人の学生がグローバルな学習をより身近に感じられるようにするための全学的な取り組みの一環として、COILをベースとした教育プログラムを導入することが明確に示されていました。当時のSUNYはグローバル展開を進めており、日本でのCOILパートナーシップはまだ確立されていませんでした。 

Picture of a group of foreign exchange students smiling and posing.

COILプラスモビリティプログラム、2019年、ニューヨーク州立ファッション工科大学と関西大学。

2014年6月、関西大学は日本の大学として初めてSUNY COILグローバルパートナーネットワークに参加しました。その後まもなく、関西大学とSUNY COILによるコースが初めて開催され、2014年秋学期には、SUNY COILセンターと文部科学省の協力を得て、関西大学で初めての国際COILシンポジウムが開催されました。

関西大学は、その後の4年間でCOILの提供を急速に拡大していきました。そして2018年には、5年間の文部科学省の大学間交流事業(2019年度)の助成金を受ける一環として、関西大学は国際部グローバル教育イノベーション推進機構(IIGE)を設立しました (Inter-University Exchange Project (Reinventing Japan), 2018)。IIGEは、教員によるCOIL各コースの設計をサポートすることで、学生がグローバルな被雇用能力だけでなく、将来のグローバルな問題の解決に役立つ能力を備えた「未来への準備」ができるように、高度に移転可能なスキルに磨きをかけることに注力しています。文部科学省の助成金は、日米の高等教育機関の間でVE/COILのパートナーシップを促進することを主な目的の一つとしています。関西大学は、文部科学省によって選ばれ、米国のCOILパートナー機関とともに、日本の他の9つの機関にCOILの直接トレーニング、ネットワーク構築の機会、サポートを提供しました。 

日米COILパートナーシップ・コミュニティの構築

2018年から2020年にかけて、IIGEは米国内の12の大学とだけでなく、世界各国とのCOILパートナーシップを促進しました。COILプロジェクトの共同推進を意図して、ジェームス・マディソン大学、西シントン大学、クレムソン大学、ファッション工科大学(SUNY)、アルバニー大学(SUNY)などと新たにパートナーシップを締結しました。 

関西大学では、6年間で69のVE/COILコースを実施し、多様な分野の学生2,436名が受講しました。また、国内外のCOILパートナーとのネットワークを構築しました。これには、米国の以下の23機関との間で実施した42のCOILプログラムが含まれます。 

ペンシルベニア州立大学ビーバー校
ファッション工科大学
ナッソー・コミュニティ・カレッジ
カリフォルニア大学バークレー校
カピオラニ・コミュニティ・カレッジ
ハワイ大学ヒロ校
ジェームズ・マディソン大学
イリノイ大学アーバナ・シャンペーン校
クレムソン大学
ニューヨーク州立大学アルバニー校
ザビエル大学
北アリゾナ大学
北イリノイ大学
西ワシントン大学
デポール大学
ミラコスタ・カレッジ
東オレゴン大学
テキサスA&M大学
バンダービルト大学
オッターベイン大学
テキサス工科大学
ワシントン大学
ミシガン州立大学

最近では、IIGE、アルバニー大学(SUNY)、ファッション工科大学(FIT)が、2019年4月から2020年2月までのCOILコラボレーションを完了しました。(U-Albany KU-COIL Plus Program, 2019)。このCOIL体験では、2019年6月にFITの学生数名が関西大学のキャンパスを訪問しました。そして、2020年2月には関西大学の学生が米国の両大学のニューヨークキャンパスを訪問することで締めくくられました (FIT students’ Visit Kansai University, Institute for Innovative Global Education, 2019)。

新たな絆の構築

関西大学のCOILパートナーシップの多くは、言語学習の場から始まりましたが、COILのオンライン形式に適した、学際的、横断的、複合的なレベルで行われるようになりました。2020年12月、IIGEはALLEX財団(Alliance for Language Learning and Educational Exchange)と提携し、「言語学習に特化したCOIL」(LLC)の推進を共同で行うことになりました。ALLEX財団は、米国に拠点を置く非営利団体で、米国とカナダの教育機関における質の高い東アジア言語プログラムの設置を促すプログラムを運営しています。日本語プログラムを持つ米国の大学と日本の大学が、学部・大学院レベルの学生を対象に、連携して言語学習や共同プロジェクトを実施しています。ALLEX財団は、テキサス工科大学、ヴァンダービルト大学、オッターバイン大学を関西大学と共同で支援し、LLCを提供しました。  

Picture that shows a street in Japan, and three headshots of students smiling.

UMAP-COILジョイントオナーズプログラム、2019年、IIGE。

このようなバーチャルな交流体験を通じた国際教育カリキュラムの変革は、IIGEの優先事項であり、焦点でもあります。このようなプログラムの代表例としては、UMAP-COILジョイントオナーズプログラムや関西大学オンライン交換留学(KU-EOL)プログラムがあります。

IIGEにとって、パートナーシップの構築は二者間だけでなく、多国間レベルでも行われます。IIGEは、米国のメンバー機関を含む13カ国以上の230以上の大学で構成されるUMAP(University Mobility in Asia and the Pacific)コンソーシアムと緊密に連携しています。このパートナーシップは主に物理的な学生の移動を基本としていますが、2020年にはUMAPメンバーが完全にオンラインで行う7週間のサマープログラムを提供しました。14カ国から集まった約140名の学生が、国連の持続可能な開発目標(SDGs)に関連する主要な現代社会問題を共同で研究しました。

また、関西大学のグローバルパートナー大学にも、2020年秋のKU-EOLプログラムに応募する学生を募りました。これまで国内の学生向けにキャンパスで行われていた授業が、オンラインで行われるようになり、外国人学生にも門戸が開かれました。このプログラムが好評だったため、関西大学とパートナーシップ契約を結び、学生をプログラムに参加させる大学が増えました。このプログラムには、11カ国の17大学から100名以上の学生が応募し、そのうち20名が米国からの参加でした。この成功を受けて、2021-22年度には大規模なKU-EOLプログラムが計画されています。IIGEは、今後もCOILプラスモビリティプログラムを継続できることを楽しみにしています。


執筆者について 

関西大学の国際部グローバル教育イノベーション推進機構(IIGE)特任コーディネーターである藤井ミッシェル ​と副機構長池田佳子。